マイナーな作品と思いますが、『地球移動作戦』というSF小説があります。
このあとがきで、著者の山本弘さんが以下のような話を書いておられます。
「フィクションは現実よりも正しい。フィクションだから示せるビジョンがある。」
また、小説内では、フィクションそのものは嘘でも、それが喚起する感情は本物だ。
というような内容が出てきます。
これを読んだとき、僕がSFが好きな理由の一つがわかった気がしました。
『地球移動作戦』はこんな作品です。
一見、荒唐無稽なストーリーに見えます。B級映画の香りがプンプンする内容です。
まだ小惑星が地球にぶつかるから、小惑星を爆破しに行く話の方が信憑性があります。
でも、その中に書かれている世界は極めてリアリティがあります。
対策は今からとらないと間に合わないのに、
・環境問題で利害が違う国の意見が割れて進まない国際議論。
・地球の滅亡が24年先のため、今の高齢者の福祉予算を削ることに反発する市民たち。
・高齢者の票のために、多大な経費のかかる対抗策に反対する政治家。
・地球に破滅をもたらす星のことを信じたくないので、見ないようにする人たち。
・宗教の本に書かれた黙示録を実現しようとする人たち。
・地球統一政府を作るための陰謀だ、とする噂を流す人たち。
どれもこれも、現実でも絶対に出てきそうな問題ばかりです。
きわめて現実に近い世界が描かれています。
表題となった「地球移動作戦(オペレーション・アースシフト)」の提唱者の風祭博士とその娘の風祭魅波は愛する人を守り抜くために、最後まで諦めないために、知恵を絞って問題に立ち向かっていきます。
絶望的な状況の中でも、未来への希望や希望を求める意志が光明を見つけ出す。
とても勇気のでる作品です。
現実の中では、日々に追われ見えにくい未来をビジョンとして描いてもらうことで、
現実を変えていくパワーをもらうことができる。
これこそ、SF小説の持つ強い力ではないかと思います。
「あの日夢見た未来はきっと現実になる」